筆跡鑑定人ブログ

筆跡鑑定人ブログ−22

筆跡鑑定人 根本 寛


 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」 のようなものです。
お気軽にお付き合いいただければ幸いです。
 ただし、プライバシー保護のため、マスコミ報道された内容は別にして、固有名詞
は原則的に仮名にし、内容によってはシチュエーションも最小限の調整をしていることをご了解ください。


芸能人の筆跡あれこれ


筆跡心理学で性格診断

 このコーナーに書いているのは、筆跡鑑定にかかわることであるが、私のもう一つのテーマは「筆跡心理学」である。筆跡による性格診断や教育をしている。もう一つというより、共通のベースといったほうがよいだろう。
 筆跡心理学とは、グラフォロジーと呼ばれ、欧米では筆跡と書き手の性格を研究する学問として認知されている。フランスでは筆跡診断士は、弁護士などと並ぶ国家資格であり、企業の人事コンサルタントや大学での進路指導などで活躍している。中堅以上の企業の約八割が何らかの形で筆跡診断士を利用しているといわれ、ヨーロッパでは国際学会なども頻繁に開かれるなど活発な活動が見られる。
 昔から「書は人なり」という言葉があるように、筆跡には書き手の人間性が表れると漠然と理解されてはいるが、その具体的な内容はほとんど知られていない。そのあたりを研究するのが筆跡心理学といえる。


コンサルタントとして人事の必要から筆跡心理学を研究

 私は、もともとは経営コンサルタントとして、人事面の必要からこの分野を十七年ほど研究してきている。これは、実は筆跡鑑定にも極めて役に立つものである。しかし、日本では筆跡心理学は認知されたものとはいえないので、鑑定書に書き込むことはしていない。筆跡鑑定の判断の一つの土台としてのみ使っている。
 鑑定以外では、個人向けに性格分析に使う程度であるが、よく当たって面白いとテレビなどのバライティ番組から出演を要請されることが多い。私も、筆跡心理学を広く理解していただきたいので協力している。そんな中から記憶に残っていることをお話ししたい。
 しかし、その前に、筆跡によって何故性格や深層心理が分かるのかの原理を少し説明しよう。


筆跡も行動も同じ脳によってコントロールされている

 私たちは、朝起きて顔を洗う、新聞を読む、あるいは出勤途上で知人にあって挨拶するなど、日頃、特に意識せずに何気なく行動している。歩くときにどちらの足を先に出そうか、挨拶するのに頭をどの程度下げようかなどと考えることはない。
 これは、脳から、その行動をするための指令が出て無意識に行動ができているわけである。文字を書くということも同じ行動の一環だから、手が勝手に動いて書いているわけではなく同じように脳の指令によって書かされている。「筆跡は行動の痕跡」という言葉があるように、文字を書くのも行動の一環だから、筆跡にはその人の日頃の行動パターンが表れる。だから、筆跡を見ればその人の行動パターンが想像できるし、行動パターンがわかれば、その奥にある性格や深層心理も見当がつくということになる。
 たとえば、道で友人にあったとき「ヤァ!」と元気よく手をあげる人もいるし、静かに会釈する人もいる。前者は陽性で社交的な人、後者はおとなしくて少しシャイな人というようなことは誰にでも想像がつく。
 この二人に、たとえば「大」という字を書いてもらうと、前者は、大き目の文字で左右の払いを勢いよく払い、一方、後者は小さめの文字で、左右の払いも短く抑制したように書く。
 このように、書いた文字には書き手の行動傾向がはっきり表われる。だから、筆跡から行動傾向を読み解く技術があれば、書き手の性格や深層心理がわかるということになるのである。
 たとえば、「口」という字を例にすれば、左上の筆が接するところ、「接筆部(せっぴつぶ)」をきちん閉じて、右上のかど(転折部=てんせつぶ)を四角にかっちり書く人(図1)は、小学校で教わった書き方を大人になってもしっかり守っていることでわかるように、貴真面目で几帳面なタイプといえる。こういう人は、ルールがはっきりしているほうが好きで、無意識のうちにそれを守ろうとする行動を取る。
 一方、接筆部を少し空けて転折部を丸く書く人(図2)は、「そんなに窮屈なのはかなわない、多少字形が崩れていても問題ではない」と考える人で、状況に合わせて融通性のある行動を取る。このように、書かれた文字は、その人の性格や深層心理を映し出しているわけである。


堀江貴文・署名

とんでもなく横幅の広い文字の書き手は?

 さて、テレビのバライティ番組では、今をときめく東国原宮崎県知事、黒柳徹子さん、和田アキ子さん、島倉千恵子さん、スケートの浅田真央さん、女子マラソンの高橋尚子さんとさまざまな方々を診断した。
忘れられない人の一人に元横砂・若乃花(花田勝)がいる。弟の貴乃花と「若貴ブーム」を引き起こし、「お兄ちゃん」の愛称の呼ばれる花田勝を知らない人はいないだろう。
 フジテレビで「グータン」という番組にレギュラー出演をしていたときのことである。その番組では、声で診断する「声紋診断」と「心理占星術」、そして私の「筆跡診断」のコーナーがあつた。
 われわれ診断者三人には主人公の名前は伏せられていて、「声紋」、「生年月日」、「筆跡」からそれぞれ主人公の人間像を描き出すという趣向である。
 あるときの筆跡は、きわめて大きな文字で、特に横幅が普通の倍もある幅広い文字だった。私はつぎのようにいった。
 「この方は、非常に体力に自信があり、体を動かすことが大好きな人です」…と、周りからドッと歓声が上った。それもそのはず、書き手は元横砂・若乃花であった。……なるほど、体力に自信がある筈である。横幅の広い文字は、体力があり体を動かすことが好きな人であることを示している。  


「さだまさし」さんのユーモア感覚

 もう一人、忘れられない人に、シンガーソングライターの「さだまさし」さんがいる。ダウンタウンの松本人志さん、濱田雅功さんが司会する番組で、歌手の「うただひかる」さんと「さだまさし」さんの筆跡を診断することになった。
 うただひかるさんは、「字が下手でファンにも笑われる、どうしたら格好の良い字が書けるの?」ということだった。確かにミミズの這ったような文字で筆跡を披露したら会場がドッと沸いた。どんなアドバイスをしたか忘れたが、とりあえず、もっと大きな字を書くようにといった。
 つぎの、さだまさしさんの当意即妙のしゃれにはまいった。 図3がさだまさしさんの自筆である。診断の都合で、名前は本名の漢字で書いてもらった。ご覧のように、あまり曲線のない大きな文字である。けれんみのない、作家に多いタイプの、なかなか味のある書体である。    
 

堀江貴文・署名

 筆跡特徴として、住所の「東京都」が右端にカーブする。このように端に寄ろうとする動きは「不安心理」を表れで心配性のことが多い。
  そこで「このように端に寄ろうとするのは、中央の広い部分は恐くて……」とまで言ったところ、佐田さんすかさず、「端っこに逃げ込むゴキブリ体質!!」と一言。会場は大爆笑。
  (なんという頭の回転の早さだろう!!)
  さすが、歌だけでなく、映画監督や作家にまで手を伸ばしている才能はダテじゃないなーと私は思わず舌を巻いたものであった。

    
   
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