筆跡鑑定人ブログ
筆跡鑑定人ブログ−35 |
筆跡鑑定人 根本 寛 |
このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」 のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。 |
中田カウス事件の筆跡鑑定 (09−6− 3) |
■ | テレビ局からの鑑定依頼 朝、まだ寝ぼけまなこで仕事に掛かろうとしたら、中央のテレビ局2局から、鑑定の収録の依頼がはいった。中田カウス事件の脅迫文事件である。今日の夕方にお邪魔をするので撮影させてくれとのこと。承知してそのつもりでいたら午後になってストップとなった。 そもそも、脅迫状が送られてきたのは4月上旬である。吉本興業の説明では、それを民間の鑑定所に依頼をし、その結果が出たので大阪府警南署に届けたということだ。これが何を意味するかといえば、その鑑定で脅迫文の送り手の容疑が固まったので、改めて刑事事件として警察に受理してもらったということだろう。 | ||
■ | 警察が乗り出すには何らかの物証が必要だ 私もこのような事件には何回か対応している。例えば「店の売り上げを店員が横領した事件」……これは日報の偽造から発覚したのだが、それを警察に説明しても中々取り上げてもらえない。警察には「民事不介入」の原則があるからだ。 もっと恐い事件もある。それは警察が自殺として処理した事件だったが、実の姉さんが弟は自殺などするはずが無いと、執念を燃やし何年も追及していた。そして、私のところに来てあるローン契約書を鑑定してくれといった。 |
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■ | 脅迫文は本当に犯人が書いたのか つぎの図が、公開された脅迫文の筆跡である。私はこれを見て失笑してしまった。なぜなら、同一文字…例えば「して」や「ず」「だ・た」等の文字を見ると、極めて安定した筆跡個性で作為の形跡が全く見当たらないからだ。 もっと目立つ文字では「必」の文字もあるが、このように目立つ文字は作為を働かす可能性があり、いま一つ信用できない。その点ひらがなは作為があってもその意図から外れやすいので信頼性が高いのである。 筆跡鑑定人としては、その文字が韜晦文字かそうでないかを調べるには、まず、同じ文字を探してそれが不自然な変化をしているかどうかを検査する。本来の筆跡で素直に書いていれば筆跡個性は安定している。しかし、作為をもって書けば、筆跡個性は不安定になり不自然さが表れるからだ。 ところが、この脅迫文はどうも作為のない文字らしい。だから、もし、中田カウスの身近な人物の文字なら、「どうも○○さんの文字に似ているね」などと、簡単に身元が割れてしまうだろう。事実、中田カウスは奥さんがそういったと話している。 この推測が当たっているなら、この犯人は、筆跡鑑定人の存在を知らなかったのか、あるいは、近辺の人間には絶対にわからない誰か別の人間に書いてもらったのだろう。吉本興業が「警察に届けた」ということから、どうやら吉本興業は身近な人間を犯人と思ったのではないだろうか。 そこで、ここでは、公開された脅迫文には作為がないと考えて筆跡心理学を応用して犯人の人物像をプロファイリングしてみよう。 |
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■ | 脅迫文を書いた犯人はどんな人物? さて、この筆跡を鑑定するとしたらどの辺りに着目すればよいでろうか。 次にAで指摘した「閉じた空間が大きい」という特徴から、年齢のわりに行動力のある人物、口の字なども左上の「接筆部」が閉じて、右上の「転折部」が角張っていることから、融通性はなく、白黒ハッキリさせたがる頑固な性格のようだ。文字間がつまっているので気の短さもある。 また、Eで指摘した「本」字や「告」字の「縦線の上への突出が長め」だから、自分の意思を通したいという気持も強いだろう。特に強い特徴としてDで指摘した「時」字や「待」字の「線の交差」がある。 このように、線を交差させたりぶつけたりするのは、普通の人は避けるものである。それが社会的なルールだからだ。しかし、このように交差させる人は「ズバッと交差させたほうがスッキリする」という気分があるらしい。つまり気が強いあるいは気が荒い人物といえる。 もう一つの特徴は、これだけ力のこもった運筆の人は、本来なら「ハネ」が強いことが多い。しかしこの書き手は「必」「野」「同」「崎」「俺」「視」「機」「待」など、どの文字を見てもハネは全然書かないタイプである。 | ||
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