(隔月誌「Mi」06年6月号より) |
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■不振企業に共通する要因 |
「他人の悲劇は、常にうんざりするほど月並みだ」と語ったのはオスカー・ワイルドである。私がコンサルタントとして多くの会社にタッチして痛感することは、好成績の会社には好成績を築いた実にさまざまな要因があるが、不振会社は、その不振の原因が実に月並みである。 私の経験によれば、不振会社にはつぎのような共通する要因がある。 @ 第一に利益を軽視している。ほとんどの会社でコスト意識が欠如し、「企業は倒産するもの」との意識がない。 A 第二に、自社を支えてくれているユーザーを真剣に理解しようとしていない。 「顧客は何故ライバル会社でなく当社を支持してくれるのか」という問にまともに答えられる社員がいない。答えられないのは顧客サイドに立って自社を冷静に分析したことが無いからである。 B 第三に切迫感がない。赤字を出していながら大部分の者は自分は関係ないと考えている。 C 第四は社内のセクショナリズムである。 D しかし、ほとんどの会社で不振の最大の原因は「ビジョンと戦略がないこと」である。「5年後、10年後にどのような企業にしたいか」と尋ねても返答がないことがほとんどであった。 不振企業の最大の問題は、会社の将来について本当に真剣に考えている人間がいないことである。また、誰もが自分の守備範囲からしかものを考えようとしていない。 |
■飾り物の理念とビジョンはいらない |
従来、優良な企業を「エクセレント・カンパニー」と呼んでいた。それが、10年ほど前からは「ビジョナリー・カンパニー」という呼び方が普及してきた。米国スタンフォード大学のジェームズ・C・コリンズの同名の著書が大ヒットしたからだ。この本は企業の研修テキストとして採用されることも多く、米国では100万部も売れた。現在「ビジョナリー・カンパニー2」が売れている。 「ビジョナリー」とは「基本理念」ということである。コリンズ氏は「成長しつづける優秀な企業には、必ず、強い信仰にも似たビジョンがある」という。そして「理念を徹底して強化し、理念を中心にカルトに近いほどの強力な企業文化を生み出している」と説明する。 ここで大事なことは、そのビジョンは必ずしも「模範的な教えや倫理的な内容であるとは限らないが社員に強く信奉されている」ということである。そして、その理念に基づいて独創的な、時にはリスクの予測される戦略が大胆に実行されていると解かれている。 これが、平凡な企業との違いである。多くの平凡な企業は、「立派な誰も反対のできそうもない」基本理念やビジョンを掲げているが、それはしばしば曖昧であったり心底信奉している人間はあまり見当たらなかったりする。その結果、判断の難しい問題にぶつかったとき、その理念に照らして判断をしようという行動にはならない。 日本企業に大胆で革新的な戦略が登場しない最大の理由は、経営理念やビジョンが企業の真の憲法ではなく、単なる飾りものになっているからである。 |
■本音で語れ、それが人を動かす |
本田宗一郎氏は「人マネをするな、モノマネをするな」と独創の大切さを説いた。「人を幸せにする人が幸せになる」と語ったのはオムロンの創業者・立石一真氏。ソニーの盛田昭夫氏は「単にユニークな製品を作り出しただけでは、本当のインダストリーとしての成功は達成できない。発明発見は大切なものである。しかし忘れてならないことは、それをどうビジネスに結び付けていくかということだ」と訴えた。 これらの言葉は、必ずしも整った「経営理念」の形になってはいない。しかし、これらの言葉こそは後進の心を奮い立たせ、間違いのない道を進むための灯火になったのである。 何故か‥‥‥。それはその言葉が本音で語られているからである。その言葉に「どうしてもこうやって欲しい」という祈りにも似た本望が込められているからである。理念やビジョンには、何よりこの「本望性」が必要である。 |
■戦略の三要素を考えよ |
前回、経営戦略は決して難しくないといった。それでは、何故多くの企業において、ゴーン氏がいうように有効な戦略が策定されていないのか。逆に言えば有効な戦略のためには何が必要なのか。 私の研究では「理念とビジョン」、「戦略」、「マーケティング」の関係は図のようになる。 |
戦略を構成する要素 |
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