(隔月誌「Mi」06年10月号より)
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■マーケティングには誤解が多い |
前回、マーケティングのごく基本的な概念について説明した。 それは、マーケティングとは、最初は、生産や販売などと同じように、企業の一機能として位置づけられたということであった。しかし、現在は企業活動の中心にあるものと理解されるようになったということである。そして、今や、企業活動の中心のマーケティングのさらに中心に、CS(顧客満足)が置かれるようになったということである。(図1) |
≪図1 マーケティングの位置づけ≫ |
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ごく簡単に説明したが、実はマーケティングについては、かなり誤解があり、正しく理解することが非常に重要なので改めてきちんと説明したい。 第一に理解していただきたいことは、マーケティングというとき、一般に二つのものを混同して言っていることが多い。それは、「マーケティング活動」と「マーケティングの考え方」(概念)との混同である。ここから誤解が生ずるので注意が必要である。 まず、「マーケティング活動」。これは、マーケティング・リサーチ(市場調査)、商品開発、広告宣伝、販売促進というように、商品を開発し販売していく一連の企業活動をいっている。この活動の中には販売促進といった「売りさばき」の活動も入っている。 ところが、経営の神様ピーター・ドラッカーは、「究極のマーケティングは、セリング(販売)を不要にするもの」と言っているのであるから話は混乱してくる。 現実には、前述のように商品開発から販売に至る一連の活動もマーケティングと言われているのであり、一概に誤りと決め付けられるものでもない。 それでは何故ピーター・ドラッカーは、過激とも聞こえるようないい方をするのであろうか。 それは、ピーター・ドラッカーは真のマーケティングを正しく伝えようとして、やや誇張していっているのである。 |
■真のマーケティングはむしろ経営哲学の問題である |
真のマーケティングとは、考え方であり、むしろ理念や経営哲学というほうがふさわしい。 それは、第一に、事業というのは徹底して顧客志向であるべきだということである。究極の言い方としては「当社は顧客が満足していただくためにのみ存在する」いうことになる。 それは極論だ、顧客満足だけが当社の存在意義とは考えられない。それでは、従業員や株主はどうなるのか、というような意見があるかも知れない。しかし、よく考えてみると、顧客が満足しない限り、長期的な企業の存在はありえない。企業がなければ従業員も株主も意味が無い。そこまで徹底して考えれば「企業は顧客のためだけに存在する」という結論になることをご理解いただけるだろう。 理論として決して難しいものではない。しかし、これを自社のテーゼとして信奉しきれるか否か。そこに真に長期にわたって繁栄する企業か否かの違いが存在する。 真のマーケティングとは、まずは企業のトップが理解して、全ての企業活動の中心に据えるものである。顧客満足が中心だから、企業では部門や立場の壁を越えて、全社一丸となって追求するのでなければ効果が上がらない。 たとえば生産部門が真剣な努力をして顧客に役立つ製品を開発したとしても、販売部門が間違った売り方をしていては、顧客満足にはつながらない。また、その逆もありうる。マーケティングではチームワークが重要な鍵を握っているのである。 |
■マーケティングとセリングの違い |
マーケティングと販売(セリング)は、販売という共通項は持ちながらも、本質は相当に違うものである。特に、できた製品を中心に考え、いかに売りさばくかという「セリング志向」とは本質的にスタンスが異なるものといえる。 そのあたりを「図2」によって具体的に説明しよう。 |
≪図2 セリング志向マーケティング志向の違い≫ |
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まずは出発点の違いである。セリング志向は、「当社はこのような製品を製造している。故にこれを売りさばかなくてはならない」という「まず製品ありき」の論理である。このような供給側の論理をプロダクト・アウトともいう。 一方、マーケティング志向の場合は、「当社の市場・顧客は何を求めているのか。どうすればもっと満足してくれるのか」ということからスタートする。このような顧客側に立った論理をマーケット・インという。 次にセリング志向は、「上手な売り方」であり、「今日の糧をいかに確保するか」という、比較的短期志向である。マーケティング志向は「顧客にとって有利な求め易い仕組みづくり」がポイントであり、「今日の糧も大事だが明日の糧がより大事」という短期・長期並立志向になる。 このように、マーケティングとは、徹底して顧客の側に立って、より満足していただける、あるいは他社よりも満足していただける、生産から販売に至る仕組みづくりを考えることにあるのである。 昨今、「会社は誰のものか」の論議が盛んである。法的には所有は株主のものになる。しかし、会社の長期的繁栄を願う良い株主ならよいが、短期収益に走る投機的株主は、経営の根幹であるマーケティングの立場からも害あって益なしなのである。 |
■4Pから4Cへ |
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≪図3 4Pから4Cへ(4Cの顧客視点で考え、それを4P翻訳し企業活動に結びつける)≫ |
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古典的には、マーケティングというと、「4P」といわれてきた。つまり「売れる製品をつくり」「売れる価格を設定し」「合理的な流通チャネルを選択し」「効果的な販売促進を行う」というものである。 新しいマーケティングでは、「4Cの視点で発想して、それを4Pに翻訳して企業活動に結びつける」ということになる。 すなわち、製品を企画するときは、「それは顧客のどのようなニーズに合致しているのか」と考え、値段を決めるときは「顧客はどの程度のコストなら負担しようと考えるのか」と考え、流通チャネルの設定では「顧客にとって便利な購入の場所はどこか」とあくまで顧客の立場に立って考えるということである。 そして、プロモーション、つまり販売促進と考えるのではなくて、「顧客はどのようなコミュニケーションを求めているのか」と発想するということである。これが、顧客志向であり、顧客中心主義ということである。 考えてみていただきたい。日頃、顧客第一主義と唱えながら、本当に徹底して顧客サイドに立って発想し、行動している企業がどれほどあるだろうか。 このような企業の哲学と行動が社員の隅々に至るまで徹底すれば、その企業は、顧客から信頼され大競争時代を勝ち抜いていく真の企業力を持っているといえるのではないだろうか。 次回は、いよいよ、「理念とビジョン」「能力」「マーケティング」を統合した「戦略」に進みたい。 |