高橋尚子さんの筆跡

筆跡鑑定人ブログ-44

筆跡鑑定人 根本 寛
 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。ただし、プライバシー保護のため固有名詞は原則的に仮名にし、内容によってはシチエーションも、特定できないよう最小限の調整をしている場合もあることをご了解ください。

 

シドニーの金メダルを筆跡から予測

シドニーオリンピックの日本女子初の金メダルから10年、高橋直子さんのスポーツキャスター姿を見ることが多くなりました。イキイキしていて、スポーツキャスターという仕事は、高橋尚子さんにとってはマラソンに次ぐ第二の天職のようです。今回は彼女の筆跡を取り上げます。

私が彼女の筆跡を知ったのは、ちょうど10年前の2000年の7月でした。9月から開かれるシドニーオリンピックを前にして、スポーツ新聞社が彼女の色紙を持って、筆跡から彼女の成績を占ってくれと表れたのです。

色紙には、「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」という、なかなかの名文句が書かれ、その後に高橋尚子と名前が書かれていました。下に掲載したのはその名前の部分です。

高橋尚子さんは、シドニーオリンピックの時、「タンポポのように軽やかに42キロの旅に出る」とうたったそうですが、確かに彼女は軽やかに走りました。しかし、私も中学生時代は駅伝の選手だったのでわかりますが、やはり、マラソンは我慢のスポーツの代表だと思います。

どんなスポーツにも我慢は大切でしょうが、マラソンは一人で考える時間がありすぎるのです。

左払いの長さの秘密

だから、どんなに高橋尚子さんが軽やかに走ろうと、その陰には、一歩一歩力を蓄えていく地道な努力がある筈だと思います。その意味で、この歌はマラソンとよくマッチしているようです。私の弟は、当時経営に苦しんでいましたが、この色紙をコピーして持って帰りました。きっと勇気づけられたのでしょう。

さて、肝心の高橋尚子さんの筆跡の話に戻ります。彼女の筆跡をご覧ください。学生時代から教職を目指していたそうですが、それにふさわしく中々の達筆です。きっと書道もやっておられるのでしょう。

第一に目につくのは「子」の文字の強いハネです。ハネは最後まで力を抜かない行動傾向ですから、粘り強さを表しています。粘り強いということは責任感の強さにも通じることで、誰にでも大いに推奨される筆跡特徴といえます。

粘り強さも、彼女の特長であることは間違いありませんが、それより「橋」文字の「木偏の左払い」に着目してください。スウーと普通より長く伸びていることにお気づきでしょうか。

この左払いは何を意味するのでしょうか……。左払いは、「木」や「大」の字でわかるように、筆は、左を書いた後大抵は右に移ります。つまり、左払いは途中経過なのですね。事務的に、飾りっ気なく書こうとすれば必要以上に伸ばす必要はないはずです。それなのに、思わず知らず、スウーと伸ばしてしまうその心は何なのでしょうね。

これは、「ちょっと格好良く見せたい」という深層心理の反映なのです。本人も意識していない「格好良く見せたい」というその深層心理が、思わず知らず筆を必要以上に走らせてしまうのです。

だから、この筆跡特徴の方は、皆美しさに敏感でオシャレです。だから、人目を引きつける魅力があります。高橋尚子さんも、思い出していただけばわかるように、どんな場面でも格好良くオシャレでした。

人を魅了する「華麗運」

そもそもオリンピックで優勝して、「タンポポのように軽やかに旅に出る」なんて格好良すぎますね。格好の良さは生き方にも表れるのです。だから、この筆跡特徴の方には「華麗運」という別名もついています。

このように「格好良く見せたい」という深層心理は、また一面「目立つことが好き」でもあります。つまり、少し意地悪く表現すると「目立ちたがり」の性格でもあるということです。

目立ちたがりというと、少し否定的な表現ですが、考えようによっては、これは大変貴重な性格なのです。わが国の国民性は「集団主義的」で「和を好む」というのは間違いないでしょう。それだけに、その和のグループから突出すること、つまり目立つことなども本来得意ではないのですね。

他にも理由があるでしょうが、この農耕民族的気風が、同質社会からオリンピックなどの大舞台に出ると、どうしても実力が発揮できないということになるように思えるのです。欧米やジャマイカなどの選手と比べると、どうしても「真面目な努力家だけど気が弱い」ように見えてしまいます。

その点、左払いが長くて目立ちたがりの傾向のある方は、そのあたりの気弱さを乗り越える強さがあると感じます。だから、大舞台に強いのです。私は、スポーツ新聞社の記者にこういいました。「高橋尚子さんは、悪くいえば目立ちたがりだから、舞台が大きければ大きいほどハッスルするでしょう。有望です」

もう一人の「目立ちたがり屋」さんとは

高橋尚子さんは、シドニーオリンピックで、日本女子陸上で初めての金メダルを獲得しました。また、その後のベルリン大会でも、女子マラソン初の20分を切る記録も出したことはよくご存じのことでしょう。これは、目立ちたがりの「左払いの長いこと」と無縁ではないはずです。

さて、もうお一人、左払いの長い方を紹介致しましょう。つぎの筆跡は誰の筆跡だかおわかりになるでしょうか。元スポーツ選手で、やはり大舞台に強い方です。……そう、元巨人軍のミスタージャイアンツ長嶋茂雄さんです。

「履歴」の文字の長い左払いはどうですか。これまた思い切って長いですね。さすが、アメリカでマクドナルドを見て「へえー、こっちにも進出してるんだ」と言った天真爛漫な長嶋さんらしい堂々たる筆跡です。

これは、脳梗塞で倒れた後、左手で書いた筆跡ですが、右手の時も同様に長く書いていました。長嶋さんこそ、いつも華やかで大舞台に強い人はいなかったでしょう。何といっても、天覧試合で、阪神の村山から9回裏の2アウトから打ったホームランこそ、長嶋さんの面目躍如というべきです。

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