筆跡心理学の利用

欧米の一流鑑定人の方式です


(協会設立者・前代表 根本寛)

当協会では長年筆跡心理学を研究し、それを筆跡鑑定に応用しておりますが、その意義についてすこしご説明させていただきます。

筆跡心理学の正解的な位置づけ

筆跡心理学とは、世界的には「グラフォロジー(Grapholgy)」と呼称され、「グラフィツック=図形」と「サイコロジー=心理学」の合成語からできています。和訳は「筆跡心理学」となります。この筆跡心理学は、フランス、イタリー、ドイツなどでは140年程度の歴史があり、特にフランスでは、「筆跡診断士」は、弁護士などと並ぶ国家資格になっています。わが国では、新潟大学教育学部の黒田正典教授、慶応義塾大学の槇田仁名誉教授などが代表的な研究者です。
 筆跡心理学は、「性格学的グラフォロジー」、「類型論的グラフォロジー」、「司法的グラフォロジー」、「生理学的グラフォロジー」など多岐にわたっていますが、日本の現状は、殆ど「性格学的グラフォロジー」に限定されており、意識的に、「司法的グラフォロジー」に取り組んでいるのは当職だけのようです。

 

性格学的グラフォロジー

 私どもで研究しているのは、「性格学的グラフォロジー」をベースに、それを応用した「司法的グラフォロジー」です。性格学的グラフォロジーとは、人の個性と筆跡の結びつきを研究するものですから、筆跡鑑定においても中心をなすものといえます。
その筆跡特徴を少し挙げれば、たとえば、「大」や「木」のような文字では横線の上に縦線が突出しますが、この突出の長さはリーダー気質と関係があります。文字全体の30%以上突出する人はリーダー的気質、25%程度は中間型、20%以内の人は協調型と解釈します。
そして、その分布はリーダー気質が約21%、中間型が約35%、協調型が約44%です。この比率は、年代や性別が違っても大差ありません。このような筆跡特徴について70種ほど体系的に理解しております。

「筆者識別能力」が向上します

 このような研究が筆跡鑑定に対してどのような効果を持つかといえば、2点に大別できます。一つは、筆跡鑑定の中心である書き手の「個性の把握」が向上し、結果として鑑定の目的たる「筆者識別能力」が格段に向上することです。
筆跡鑑定では「筆者識別」の目的を達成するために、書き手の個性の把握がきわめて重要です。なぜなら、筆跡鑑定には、「個人内変動」が付きまとい、単純な字形の異同判断ではすまないからです。筆跡心理学は、まさに人の個性を研究することですから、筆跡鑑定にとっての中心的な能力を高めることに効果があります。これを整理して言えばつぎのようになります。

ポイント1
筆跡とは、文字を書くという行動の結果が、「行動の痕跡」として残されたものである。
ポイント2
人の行動には個性があり、「行動の痕跡」である筆跡にもその個性が表出する。個人内変動を踏まえた筆跡鑑定は単なる字形の異同判断ではなく、個性を把握して書き手を判別することにあり、個性の把握が筆跡鑑定の核心をなしている。
ポイント3
従って「筆跡と個性の関係を追及する」筆跡心理学は、個性の把握を通して筆者識別の重要な鍵になるものであるということができる。

異なる文字でも比較ができる

  筆跡鑑定では原則的に同一文字を比較検証します。たとえば、「東京都」という文字と「神奈川県」という文字を比較することはいたしません。字形が異なるからです。
しかし、筆跡心理学の立場からは、比較検証することができます。たとえば、先の縦線の突出でいえば、「東」の字と「申」の字で比較検証が可能です(図解A)。図は同一人の筆跡ですが、上への突出の長さは同じ程度になっていることがご理解いただけるでしょう。
その他、たとえば「東、京」や「神、県」など四角を形成する文字では、左上の角の形状(図解B)、右上角の形状(図解C)なども比較が可能です。さらに「都」と「神」の文字では、「偏とつくり」の間の空間の広さ(図解D)で比較が可能になります。

 いうまでもなく、これらの筆跡特徴は、それぞれ心理的裏づけがあり、同一人であれば、ほぼ、安定して一定のパターンを示します。また、筆者を識別する上では、その筆跡特徴がどの程度の比率で分布しているかの知識が重要ですが、
前述のとおり、私どもでは、このような筆跡特徴70種ほどを把握しておりますので一般に筆跡鑑定人が取り上げることのできない「異字による比較」が可能になります。そのため筆者識別の精度はかなり高いものと自負しております。

鑑定書に書き込むことはいたしません

  筆跡鑑定では、鑑定文書と対照資料との間に共通の文字が少なかったり、無いというケースがあります。その場合、異字であっても比較検証ができることは筆者識別において非常に有利になります。
私どもは、筆跡鑑定において、このような筆跡心理学の知見を活用して筆者識別の判定精度を高めておりますが、現状においては、これをダイレクトに鑑定書に記載することは行っておりません。
なぜなら、わが国では、まだ筆跡心理学がオーソライズされたものとは言えず、司法関係者の理解が得られるのはまだ先のことと考えているからです。その日に向けて日々努力を重ねている次第です。