筆跡鑑定用語の解説
鑑定書では多少特殊な用語が使われます。多く使われる用語について簡単に説明しています。
あ行
- 意見書 (いけんしょ)ある鑑定書に対して反対の意見を述べる文書。反論書ともいう。裁判官の判断に対するものもある。
- 異筆 (いひつ)別人の筆跡のこと。⇔同筆。
- 異同 (いどう)別人または同一人の筆跡のこと。
- 運筆 (うんぴつ)文字を書く筆の運びのこと。運筆は、その時の調子で変化しやすい「画線の長さ」などに比べると、「手や腕の動かし方」のため、より安定的なため筆跡鑑定においては重要な判断要素になる。
- 異体字 (いたいじ)辞書には正字として取り上げられないが一般に理解されている文字。「俗字」ともいう。例として「涙→泪」、「高→髙」、「同→仝」などがある。
- 折り返し (おりかえし)「道」字の「しんにょう」の第2画と3画の接合部のようなところをいう。
か行
- 怪文書 (かいぶんしょ)誹謗・中傷・いやがらせなど、多くは差出人不明の文書。
- 稀少筆跡個性
(きしょうひっせきこせい)多くは見られない珍しい筆跡個性のこと。20人に1人以下程度のものを「稀少」といい、10人に1人以下程度のものを「やや稀少」という。 - 起筆 (きひつ)文字の書き始めの部分。始筆ともいう。
- 旧字体 (きゅうじたい)常用漢字に採用されなかった古い書体。一例として「続→續」、「覚→覺」などがある
- 検体 (けんたい)調査する文字のこと。
- 原本 (げんぽん)鑑定に使う資料について、複写などでない本物をいう。
- 交差部 (こうさぶ)「十」字や「木」字等で、2本の画が交差する部分をいう。
- 恒常性 (こうじょうせい)筆跡個性が繰り返し安定的に表われること。常同性ともいう。鑑定の根拠とするには、その筆跡個性が偶然ではなく恒常性を持っていることが必要になる。恒常性を把握するためには、複数の文字を調査して「個人内変動」の傾向や変動幅を把握することが大切である。
- 向勢 (こうせい)「日、目」など、二本の縦画が相対するとき、その線が外に膨らむように書かれることで穏やかで温厚な感じになる。書道用語であるが、一つの筆跡個性である。欧陽詢などが代表的。⇔背勢。
- 公正遺言証書
(こうせいゆいごんしょうしょ)公証人役場で公証人に作ってもらった遺言書。登録されているため紛失したり、トラブルの原因になりにくい。⇔自筆遺言証書。 - 個人内変動
(こじんないへんどう)同一人が同一文字を書いたときに生ずる筆跡の変化のこと。個人内変動の傾向や変動幅を把することが鑑定上重要な鍵になる。個人内変動は、書き手により変動幅が大きくなることから判定の難しさの代表的なものといえる。一般に文字を書く度合いの低い人は個人内変動が大きい。 - 誤字 (ごじ)漢字には定められた形があり正字と呼ばれる。字画数が正字と異なるもの、字画の長短が異なるものなどは厳密には誤字になる。「博」の旁が「専」と点がないもの、「妹」の旁が「末」と画の長さが異なるものも厳密には誤字になる。いずれにせよ、同じ誤字が複数回出てくるようなら、同筆の可能性があることになる。
- 誤用 (ごよう)漢字は発音が同じで意味の異なる文字がたくさんあるので、「放漫→放慢」、「応対→応待」などと誤る例がすくなくない。誤用も誤字と同じく同じ誤りが複数回出てくるようなら、同筆の可能性があることになる。
さ行
- 作為筆跡
(さくいひっせき)作為のある筆跡。「偽筆」とも言う。自分の筆跡を隠蔽しようとする「韜晦」(とうかい)と他人の筆跡を真似する「模倣」の二つがある。方法として、「模写」「透写」のほか、コピーなどがある。 - 字画形態
(じかくけいたい)文字の一画、一画の形のこと。 - 字画構成
(じかくこうせい)字画と字画が組み合わされた形のこと。 - 渋滞 (じゅうたい)書字行動が不自由なため運筆が滞ること。
- 終筆部 (しゅうひつぶ)字画の最後の部分。⇔始筆部
- 書字技量 (しょじぎりょう)文字を書く技量のこと。つまり達筆か否かの程度のこと。書写技量ともいう。
- 真筆 (しんひつ)書き手本人筆跡のこと。
- 接合部 (せつごうぶ)2本の字画が接する部分。たとえば「口」字なら、四隅のうち、右上の角(転折部)を除く3箇所が接合部になる。
- 送筆部 (そうひつぶ)字画を書いているとき、筆を送っている部分。
た行
- 縦画 (たてかく)「十」や「木」等の文字で第2画のこと。
- 韜晦 (とうかい)自分の筆跡を隠そうとの目的で書くこと。
- 透写 (とうしゃ)手本を下に敷いて筆跡を透かして写し取ること。厚い用紙でも下から強い光を当てて透写する方法がある。見破られないよう、手本とは多少の違いをつけるなど巧妙なケースもある。
- 同筆 (どうひつ)同一人の筆跡のこと。⇔異筆。
- 点画 (てんかく)「さんずい」や「永字の第1画」などの点状の短い画のこと。
- 転折部 (てんせつぶ)「口」字や「日」字等の右上の角の折れる部分をいう。転ずる(丸く書かれる)か、折れる(角に曲げる)ことからこのようにいう。
- 止め (とめ)終筆部を払わないでグイと止める書き方。「十」字でいえば、横画の最後は止めであり縦画の最後は払いになる。⇔払い。
な行
は行
- 背勢 (はいせい)「日、目」など、二本の縦画が相対するとき、その線が内側に引き締まって書かれることでシャープで格調の高い感じになる。書道用語であるが、一つの筆跡個性である。慮世南などが代表的。⇔向勢。
- 払い (はらい)終筆部を力を抜いて流すような書き方。「十」字でいえば縦画の最後は払いになり、横画の最後は止めになる。⇔止め。
- 左払い (ひだりばらい)「大」字の第2画や「木」字の第3画等の左に払う字画のこと。⇔右払い。
- 筆圧 (ひつあつ)文字を書くときのペン先にかかる圧力のこと。刑事事件と異なり民事の筆跡鑑定ではさほど使われない。
- 筆者識別
(ひっしゃしきべつ)筆者を判別すること。鑑定の本旨。 - 筆順 (ひつじゅん)文字を書くときの字画の順序のこと。筆順は固定化しやすく筆跡鑑定では大切である。
- 筆勢 (ひっせい)筆の勢いやスピードのこと。他人の文字を模倣する場合など、運筆のスピードは遅くなることが多いので、筆勢の観察も大切である。
- 筆跡個性
(ひっせきこせい)筆跡に表れるその人特有の個性のこと。「筆癖」とも言う。 - 不動文字 (ふどうもじ)契約書などにおいて予め印刷されている文字のこと。
- 筆継ぎ (ふでつぎ)書字行動が不自由な人など、一気に書けないため筆を継いで書くこと。
- 震え (ふるえ)書字行動が不自由などで字画線が震えること。
ま行
- 右払い (みぎばらい)「大」字の第3画や「木」字の第4画等の右に払う字画のこと。⇔左払い。
- 模写 (もしゃ)手本を見て模倣すること。
や行
横画 (よこかく)「十」や「木」等の文字で第1画のこと。
ら行
連綿体 (れんめんたい)行書や草書などで、実線と実線の間を線 で続けた書体のこと。一文字でも、別の文字との間でも言う。実線ど実線をつなぐ線は「連綿線」と言う。