イジメと切れやすい子供の筆跡

筆跡鑑定人ブログ-16

筆跡鑑定人 根本 寛
 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。ただし、プライバシー保護のため固有名詞は原則的に仮名にし、内容によってはシチエーションも、特定できないよう最小限の調整をしている場合もあることをご了解ください。

 

筆跡鑑定でもイジメ問題の相談が増えた

このところ、新聞にもイジメの記事が載らない日はないほど大きなテーマになっている。私のところへの鑑定相談でもイジメ問題が増えてきた。昨年は3件、今年(19年)は2月中旬ですでに2件の相談があった。
今年の2件は、いずれも「ウザイ! 死ね!」などと書かれたイジメの手紙の書き手を特定できないかという相談である。1件は鑑定不能だったが、1件は「同じクラスのある子が犯人の可能性が極めて高い」という結論になった。
親御さんの話では、小学4年生の子供がイジメを受けて登校を拒否しているが、学校は解決のための行動を起こしてくれない。筆跡鑑定で書き手を明らかにして学校に対応を迫りたいというものである。
このケースは、いわゆる「変体少女文字」で書かれていたが、それはクラス40人中一人しかいない。鑑定結果は、「この子が書いたのはほぼ間違いはない」と言えるものであったが、断言するには十分ではない。
このようなぎりぎりのケースは間々あるが、特に相手が子供であるだけにより一層慎重にならざるをえない。

■イジメなど強いストレスを受けている子供の筆跡

守秘義務もあり、ここでその文字を具体的に説明するわけにはいかない。そこで、今回は筆跡鑑定人という「司法的筆跡学」の立場ではなく「性格学的筆跡学」の立場からイジメにかかわる筆跡について説明したい。
最初に、イジメに逢ってストレスが高じたり、果ては自殺に追い込まれるような子供はどんな字を書くのかということである。強いストレスがあったり不安感が高まるとつぎのような変化がある。
① 書体の乱れ、崩れが表れる(図A)
② 画数の多い文字の「字空間」につぶれが出る(図B)
③ 文字が小さくなる(図C)

子供に限らないが、強いストレスにさらされると、心身が萎縮しスムーズに手が動かなくなったりする。その結果、書体が崩れたり文字が小さくなったりするのである。また、人間は苦しいと広い空間は心にフィットせず、つぶれたような窮屈な空間の方が心にしっくり来る。その結果、無意識に空間のつぶれた文字を書くのである。子供を持つお母さんや担任の先生は、日頃から子供の筆跡に注意して、子供の精神状態を掴んでいただきたいと思う。

■ 切れやすい子供の文字

また、イジメとは異なるが最近は「切れやすい子供」も増えているようだ。切れやすいとは「ちょっとのことでカッとなりやすい」「怒りを上手にコントロールできないで攻撃的になる」といった性格傾向のことである。このような傾向の子供には、つぎのような文字が見られることが多い。

① 線の衝突がある(図D1)
普通は図のように衝突させる人は少ないが、それを衝突させるのは「抑 えない方が気持ちがいい」という性格であり現実にも人と衝突しやすい。
図D2は、秋田の児童連続殺人事件の畠山鈴香の筆跡だが、やはり線が 衝突している。

② 字間が詰まっている(図E1)
文字と文字の間を詰めて書くということは、余裕がない、短気ともいえ、 切れやすさにつながる。

③ 横線が非等間隔(図F1)
「言」とか「青」のように横線の多い文字のとき、その横線の間隔が広かったり狭かったりとバラバラになることである。これは精神状態が不安定な「気分屋」の傾向がある。図F2「里」の字も畠山鈴香の筆跡だが、やはり横線が非等間隔になっている。

④ 曲線がなく直線ばかりの文字(図G1)
文字に表れる線の柔らか味は、人間の柔らか味にも通じ情緒性があることを示している。直線ばかりの文字は情緒の未発達に通じる。極端な例が、神戸児童連続殺傷事件の犯人の少年「酒鬼薔薇聖斗」(図G2)の文字である。ただ、低学年のうちはどうしても直線的な線質になるが、それは単に訓練不足の結果であって、異常を示すものではないのでご安心いただきたい。

今回は、イジメ問題にかかわる筆跡を示した。参考にしていただけば幸いである。今回述べたことは、子供に限定されるものではなく大人にもそのまま当てはまる事である。
(平成19年2月)
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