堀江貴文・佐野厄除け大師の怪

筆跡鑑定人ブログ-20

筆跡鑑定人 根本 寛
 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。ただし、プライバシー保護のため固有名詞は原則的に仮名にし、内容によってはシチエーションも、特定できないよう最小限の調整をしている場合もあることをご了解ください。

 

ライブドア・堀江貴文が厄除け大師に祈願?

平成18年11月、某週刊誌から問い合わせがあった。佐野厄除け大師に堀江貴文の絵馬が奉納されているが、本物かどうか筆跡鑑定してくれとの依頼である。絵馬を写真に撮って送ってきた。
この件では、著名な某レポーターが宮司に合い本物かどうかを尋ねたところ「個人的なことに関しては答えられません」といわれ、本人らしいと感触を得たとのことである。
大騒ぎするほどのものではないが、付き合いのあるマスコミの依頼とあらば断るわけにもいかない。コピー状態が悪く見難いが分析をしてみた。
絵馬には「願いこと」という印刷文字の後に、「堀江貴文の誠意が必ず通じ、罰が軽く執行猶予が必ずつき拘束の生活から自由の生活が成就」「弁護士二人の力により堀江貴文によい第二の人生が必ず成就」などと毛筆でしたためられ、最後に「東京都 六本木ヒルズ内 堀江貴文」と署名されている。
文面は本人とは思いないようなパロディ的な感じがするが、しかし、筆跡は書道の素養がある様子で、結構整った楷書で書かれている。
そこで、堀江貴文が株券に署名したものと、平成18年5月に拘置所を出たとき、マスコミの質問に文書で回答したものの署名の二つと比較して検討した。株券に署名したものは崩し度が高く書体が異なるので一部しか使えない。マスコミの質問に答えたときの署名は使える。
つぎが、この署名だがあなたならどう見るだろうか。

■堀江貴文はアイデア型の柔らかい字を書くが絵馬の文字はどうか。

結論からいうとどうも別人のようである。願い事の内容も一種パロデイ的であるが筆跡も異なっている点が多い。
違いの第一は、絵馬の方が横線の右上がりの度合いがかなり強い。そして、「江」の字では、絵馬の横画は「へ」の字のように、力が入ってひねっているが回答書にはそのようなひねりの気配がなく素直な運筆である。
運筆というのは手の動かし方のため、「線の長さ」などと異なり安定性が高く信頼できる。線の長さなどは、そのときの調子で結構狂うものである。
堀江貴文は全体として融通性のあるアイディア型の柔らかい字を書いているが、それに比べると絵馬は、力の入った生真面目さと頑固さの感じられる書体である。
また、「貴」の字では株券への署名も含めて第4画の上への突出が短いが絵馬は長い。もちろん「文」の字では右への払いの長さが大きく異なる。しかし、払いの長さは線の長さと同じく、そのときの調子で狂いやすい部分なのであまり重きを置くわけにはいかない。
何よりも「堀江貴文」という全体を観察すると「江」の文字の大きさが異なっている。マスコミ回答も株券への署名も「江」の字は小さくなる。この特徴は二つの署名が一致しているので信頼性が高い。それが絵馬ではむしろ大きいくらいである。このようなレイアウトは、書き手のセンスや気質の反映だから、書くときの状況が違ったからといってあまり変化はしないものである。
というわけで「どうも別人のようですね」と返事をした。

■筆跡鑑定では総合的なセンスが要求される

筆跡鑑定では、アマチュアは一般に字形の違いにとらわれる傾向がある。今回の文字でいえば「文」の文字である。この文字は回答書では最終画・右払いが極端に長く伸びている。
しかし、このような部分というのは前述の通り変化しやすい部分の典型である。
リラックスして良い気分で書くときは長く伸ばし、緊張して書くときは長さが抑制される。もちろん人によって、そのような気分の変化の激しい人と安定的な人というように個人差も大きい。
筆跡鑑定は、機械的に分析すればよいというわけではなく、そのような心理的要因も含めて判断しなければならない。その辺りが面白いところでもあり難しいところでもある。
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