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筆跡鑑定人ブログ-39
- 筆跡鑑定人 根本 寛
- このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。ただし、プライバシー保護のため固有名詞は原則的に仮名にし、内容によってはシチエーションも、特定できないよう最小限の調整をしている場合もあることをご了解ください。
一体何人殺しているのか
「結婚詐欺事件」として、半年間も名前を伏せて報道されていた「35歳女」がとうとう殺人の容疑者として逮捕され、名前もようやく公開された。
報道によると、彼女の周辺では分かっているだけで10件の事件があり、詐欺の被害額は1億円以上、死亡者は6人にもなるという。もしそれが全て解明されたら、和歌山カレー事件の死亡4人を抜いて史上最悪の事件になるだろうと言われている。
中学生とは思えないしっかりした筆跡
木嶋佳苗には、15歳のときの中学卒業文集の筆跡が公開されている。そこで、このような稀代の大事件を起こした人間とはいかなる人間なのか、筆跡心理学の研究家として、彼女の筆跡から追求してみるのも役割かなと思い少し紹介したい。
木嶋佳苗は、多くの犯罪者と異なり、もとは良い家庭のお嬢様である。子供のころからピアノを習い、家庭では時折演奏会も開かれるなど、地方では知られた家庭であったらしい。
中学3年生の筆跡は、成人とは異なるであろうか。……結論から言えば成人の個性の7割程度は表れていると考えてよさそうだ。筆跡とは、書き手の個性を反映したものだから、書き手の個性の確立度合いに対応している。その意味で考察すると、15歳という年代は成人の7割程度は個性が確立していると考えてよいと思われる。
犯罪者には珍しく「ハネ」が強い
以上のような前提で彼女の筆跡を点検すると、第1に、非常に整ったしっかりした書体である。中学3年生にして大人並の達筆といっても良いほどである。書道の素養もありそうだ。
第2の特徴として印象的なのは「ハネが強いこと」である。犯罪者の多くはハネを書かない。秋田の畠山鈴香も、昨年の中田カフスへの脅迫状もハネは書かれていない。特に中田カフス事件は、非常に筆圧の高い粘着気質を想定させる筆跡にもかかわらずハネはないのである。
木嶋佳苗の筆跡(中学校の卒業文集より抜粋)
ハネとは、最後まで力を抜かない書き方だから、ものごとに対する執着心の強さや粘り強さ、転じて責任感のある性格につながるものといえる。だから、そのハネが犯罪者にないのはわかるような気がするが、木嶋佳苗の筆跡でハネが強いというのは異例である。まともな家庭の育ちであることや書道の素養があるためかも知れない。
欲しいものに対する「強烈な執着心」
提示した文字では「木」の字や「読」の字に表れているが、その他「学、歳、氣」などハネのある文字は全てしっかりと書かれている。確かに今回の事件を見ると、しっかり準備をして行動するなど、目的に対する粘り強い執念を感じさせる。
第2に、「木」や「読」の文字で、横線の上に縦線が突出する部分を見ると、縦線の起筆部分にヒネリが書かれ、かつ、縦線が長めである。ヒネリは、良く言えば「信念」、悪く言えば「我の強さ」を表している。
書道では軽いヒネリを推奨する。書を書くというメリハリを尊重するからだろう。しかし、木嶋佳苗のように真横に強く引くというような書き方ではない。これはやはり、木嶋佳苗の性格の反映といえる。
横線の上に突出する縦線が長めなことは、平凡では納まらないという野心の強さを表している。本人も自覚していない深層心理にあるものが表出するのである。新聞では「東京セレブ生活に執着」と書かれているが、そういう野心の強さを表している。
第3の特徴は、「佳」や「読」の「偏とつくりの間の隙間が狭いこと」である。このような隙間が狭いことは、自分の考え方に固執し、他人の意見を受け入れることや、自分の考えと合わなければ常識にも従わない頑固な性格を示している。
このように見てくると、木嶋佳苗は、並ではない「我の強さと強い野心的な欲求」があり、自分の求めるものは是が非でも手に入れようとする「強烈な執着心」の持ち主であることが分かる。
肉食獣のような独特の行動力
最後に、非常に変わった特徴として、「映画鑑賞」の文字で「画」と「鑑」の字間だけが極めて狭くなることがある。この変わった特徴は、この文字だけに表れたものではなく、A4サイズにフルに書かれた文章中に10箇所以上も表れる。
この変わった癖は何を示しているのだろうか。この書き方を日常行動に置き換えると、たとえば時速50キロで車を運転していて、ときどき急にスピードを上げるというような行動と考えられる。
あるいは、肉食獣が獲物を狙って静かに近づき、捕える瞬間、凄いスピードで飛びかかるというような行動を連想させる。
つまりこの癖は、日頃、概ねは常識的で平静な行動をしているが、それだけでは持っている心理的エネルギーが十分に発散しきれない。その溜まったエネルギーを放出するという表れのように思われる。いずれにせよこの独特の行動に、次々と犯行を重ねた「稀代の毒女」の資質の一端を見るような気がする。
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