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筆跡鑑定人ブログ54-
- 筆跡鑑定人 根本 寛
- このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。ただし、プライバシー保護のため固有名詞は原則的に仮名にし、内容によってはシチエーションも、特定できないよう最小限の調整をしている場合もあることをご了解ください。
いたずらな小学生時代
本田宗一郎といえば、ソニーの盛田さんなどと並んで大成功した創業者であることはいうまでもない。桁外れの多くのエビソートでも有名だ。曰く、小学生の時には、親に通信簿を見せるのが嫌で(成績が良すぎて)自分で印鑑を彫って押していた。何人かの悪友に頼まれ同じように作ってあげたがすぐバレてしまった。なぜなら、みんな「鏡文字」だった。「本田」の文字は左右対称なのでバレなかったのだ。
新車発表で「今年は赤でいく!!」と宣言したのはいいが、当時は赤色は消防車など緊急用にしか認められていなかった。「個人の好みを国が制限するなんて怪しからん」と大々的に発表しついに赤色を認めさせた……などなど。
ともかく、経営者としても人物的にも桁外れの「枠には収まらない人間」だった。尋常高等小学校卒だから中卒とほとんど変わらない。丁稚奉公からスタートし、世界のホンダの盟主となった本田宗一郎とはどのような人物なのか。筆跡面からはどのような姿を見せてくれるだろうか。
リーダー気質を示す頭部長突出
つぎの文字が本田宗一郎の署名である。第一に目につくのが「本」字の、横画の上に突出する縦画の長さである。相当に長い。これを筆跡心理学では、「リーダー気質」を表すと見ている。人の下には納まってはいない天下を取るような性格だということである。
同じ筆跡に政治家の「中曽根康弘」がいるが、最近の政治家にはほとんどいない。常識的かも知れないが、総じて小粒になったようだ。しかし、そういう政治家を国民が選んでいるのだから、近年の国民性としても小市民型になったということだろう。
さて、この横線の上に突出する縦線が長いと何故リーダー気質と言えるのだろうか。これは深層心理のなせるわざなので明確には言えない。しか し、どうも横線は、人に「平均値」のような感覚を与えるらしく、平均に納まりたくない、平凡ではいたくないと感じている人間は高い位置に筆を下すらしい。
華やか好みも相当なものだ
つぎに、同じ「本」字の左払いが長めである。これは、美しいものや華やかなことが好きという性格を表している。本田宗一郎は、かなりの派手好みで、20歳ごろは当時珍しい洋服を着て、派手なシャツやネクタイを付けていたそうだ。確かに晩年の着るものでも派手なときもあったので、こ の華やか好みというのは間違いなさそうだ。
つぎに「一」字が大きく書かれ、円で囲むと左右が飛び出してしまう。これは、簡単な字形なので全体のバランスから大きく書いたのかも知れないが、小泉純一郎などは、「一」をむしろ小さめに書いているから、バランス感覚からばかりでもないだろう、やはり、「並」ではないぞという気構えの反映と思われる。
最後に、「郎」の字である。これは最後の縦線が、下に長く伸びて、やはり円からはみ出している。これを「縦線下部長突出」と呼んでいる。ときに見かける書き方だが、これは「何をするにも良い結果を出そう」という気持ちの表れといえる。
新しいものを生み出したいという強烈な願望
つまり、程々で止めればよいのに無意識のうちに筆がスルスルと伸びてしまう。それは、「もう少し」「もう少し」と思う深層心理が筆を動かしていると考えられるからだ。
本田宗一郎は、いい加減な仕事をした工員を工具で殴りつけるというような無茶な行動で社員に恐れられていた。良い仕事をしようという気持ちや、新分野を切り拓こうという強烈な情熱は誰にも負けないものを持っていたようだ。この「郎」の書き方は、まさに本田宗一郎の真骨頂といえるかもしれない。
というわけで、筆跡から本田宗一郎の新しい個性を発見しようという試みは、残念ながら奏功しなかった。むしろ、本田宗一郎の個性が筆跡心理学的にしっかり合致していたということを確認するに止まった。
今こそ出でよ!! 平成の本田宗一郎
最後に、本田宗一郎の筆跡を赤丸で囲んだ意味である。つまり「枠に納まらない人物」といういい方があるが、まさに図のように、本田宗一郎こそは枠に納まらない人物というべきだろう。
世の中の、大部分の人は一定の枠内に納まっている。一部の人だけがその枠からはみ出している。大部分が枠からはみ出すようでは社会はうまく機能しない。一部の人がはみ出るのが正常な社会なのだろう。
しかし、昨今のわが国の状況は、枠からはみ出す人間があまりにいないのではないだろうか。和やかで優しい社会かも知れないが、これでわが国の将来は大丈夫なのだろうか。……今こそ、本田宗一郎のような破天荒な人物が現れて欲しいと思う。
(最後は柄にもなく社会的なテーマになった。今日は昔の「紀元節」、私の誕生日である。記念ということでお許しください。)
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