鑑定における統計的なアプローチについて

筆跡鑑定人ブログ-7

筆跡鑑定人 根本 寛
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筆跡特徴の分布について

私は、今までに著名な方を含め30人程度の鑑定書を見ているが、統計的な見方を重視する理論の方や、統計的理論を鑑定書の中で実際に展開している事例をほとんど見ていない。私は統計的な見方を重視しているので、その点やや不可解である。
統計的な見方は二通りある。一つは、ある筆跡特徴がどの程度の割合で分布しているのかという「筆跡特徴の分布」という側面である。たとえば「口」や「田」のような矩形の文字を書いたときに、右上の肩の部分……「転折部」が、角張る人と丸みを帯びる人がいる。この場合、角張る人と丸みを帯びる人の比率はどうかというようなことである。この例の場合は、私の調査ではほぼ半々だが角張る人の方が少し多い。年代では若い人の方が角張る率が高く、年齢が上になるに従い丸型が多くなる。
私は、このような筆跡特徴について、数千人規模で70パターンほどに分類し概ね分布状態を把握している。この分布に関しては、鑑定上は稀少な筆跡特徴の実態把握が特に大事である。

■筆跡個性を統計的に捉える

もう一つの統計的な見方とは、鑑定の対象とする文字を、一字ではなく複数個取り出して「筆跡個性を把握する」という側面である。
筆跡個性とは、何回書いても同じ書き癖が表れる「恒常性」があることをいう。筆跡鑑定では、たまたまそのときの調子で表れた「字形」をその人の筆跡個性として判断しては誤りになる。したがって一文字で判定するのは精度に関して限界がある。「恒常的な筆跡個性」こそが適切な比較対象になるのである。
筆跡鑑定の流れを整理すれば、①筆跡個性の特定、②その筆跡個性の対照文字との比較、③異同の判断というプロセスになる。このプロセスで最も重要なのが「筆跡個性の特定」である。

■「筆跡個性の特定」の雑な鑑定人がいる

その最も重要な「筆跡個性の特定」に関して、資料に同じ文字が複数個あるのに、無視して1個しか取り上げない鑑定人が少なくない。
図1は、養子縁組届の訴訟で、ある鑑定人が「画数が少ないので鑑定不能」とした鑑定書の一部である。確かに、この二字で書き手の異同を判断することは出来ない。形が少し違ってはいるが、「個人内変動」ということもあり、確かに確定的なことは言えないだろう。

しかし、実際には、養子縁組届には同じ文字は4文字あり、対照資料には6文字もあった。そこで私は夫々4字づつ取り上げた。(図2)
いかがであろうか。このように、各4文字で比較すれば、資料AとBが別人の筆跡であることは一目瞭然ではないだろうか。
資料Aは二画のなす角度が狭いし、左下に向かう画が長めになる。その筆跡特徴が4文字の全てで一致している。
私は、このように出来るだけ複数個の検体を取り上げることによって、筆跡個性を特定し鑑定精度を高めることを重視しているが、他の鑑定人にあまり見ることがないのが不可解である。

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