小沢一郎も関係?藤井裕久の筆跡鑑定

筆跡鑑定人ブログ-78

筆跡鑑定人 根本 寛
 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。ただし、プライバシー保護のため固有名詞は原則的に仮名にし、内容によってはシチエーションも、特定できないよう最小限の調整をしている場合もあることをご了解ください。

 

小沢一郎は認知症になったのか?

小沢一郎・元民主党代表の政治資金収支報告書の虚偽記載に関して、24年4月26日、東京地裁は無罪の判決を下した。小沢氏が「報告書を確かめた証拠がない」からというものだ。「疑わしきは被告人の有利に」の原則に沿ったということである。

法律的には色々な考え方があるのだろうが、小沢氏は、自分の懐から4億円を出し、不動産購入を指示し、不動産の売買契約書に署名捺印をし、さらに自分の名義で登記をしている。これで「政治資金収支報告書に記載されているかどうかは知らない」というのは、認知症でもなければありえないことだろう。

オリンパスは、類似した事件で「有価証券報告書に虚偽記載」したとして役員が有罪になっている。企業の社会的責任(CSR)から当然のことである。まして小沢さんは、経済活動を超えた社会的指導者である。「位高ければ徳高きを要す」という見識がない者は指導者には適さない。さっさと辞めたほうがいいだろう。

15億円も小沢マネーになったのでは?

今回の藤井裕久・民主党最高顧問の筆跡鑑定は、昨23年2月某新聞社から依頼されたものである。これは、「消えた15億円」を巡る疑惑である。藤井氏は、自由党幹事長で会計責任者を務めていた平成14年に、党本部から組織対策費として、約10億円と約5億円を受け取ったとされている。

翌年、自由党は民主党との合併により党は解散となったが、その15億円は小沢マネーとなり関係団体に流れたようだと報道されている。その10億円と5億円の2枚の領収書に記載された藤井氏の署名が問題となった。

藤井氏は、「お金は受け取っていないし領収書に署名した記憶もない」と主張している。藤井氏の言い分からは、片方は渡したといい、片方は受け取っていないとなる。15億円だから半端な額ではない。本当に、小沢マネーに流れたとすれば大きな問題だ。

藤井氏は、23年後2月の予算委員会で、この領収書への署名に関し、自民党の柴山昌彦氏から激しい追及を受けた。私の鑑定は、まさにその最中に依頼されて行ったものである。2枚の領収書の署名が藤井氏本人の筆跡か否かということが焦点である。……私の鑑定結果は、「本人の筆跡」であった。

資料1がその新聞報道で、A4サイズの大きさで報道されている。鑑定では、新聞の特性も考慮して「藤」の一字だけ取り上げた。普通の鑑定のように「藤」3文字を並べて比較したが、新聞では紙面の都合で1文字だけ拡大掲載された。

このときの私の鑑定は、9箇所の特徴を指摘した。「やや稀少」な特徴もあり、一致率は「藤」一字でも概算10万人に1人という確度であった。疑問の余地なく本人の筆跡だと証明できた。

新聞社の担当記者からは、何度か電話があり、もしかすると「自民党から、正式な鑑定依頼があるかも知れませんよ」とのことであった。しかし、藤井氏は運が強い。この予算会議は、3月11日の大震災でぶっ飛んでしまった。

というわけで、今回、改めて鑑定をして読者の皆さんにご判断頂きたい。今回は、特に強い特徴の「裕」字を取り上げた。資料2に挙げた2つの筆跡が問題の筆跡だ。藤井氏が書いた覚えはないと主張している領収書に書かれた筆跡である。資料3は、藤井氏も自分の筆跡と認めている合意書への署名である。

この「裕」の字が別人の筆跡か

資料4が藤井裕久の「裕」字を拡大したものである。如何だろう、一見して酷似していると思われるのではなかろうか。違いは、文字の外形が右の文字のほうが縦長だというくらいである。

書道手本と比べると、個性的な書き方であることがわかる。行書でも草書でもこのような書き方にはならない。これだけ個性的な字体を、仮に別人が、この程度自然に書けるというのは普通あり得ないことである。

まず、aで指摘したのは「第1点画の形」である。少し丸みのある運筆の癖が2資料に類似している。このように、必ずしも形がそっくりでなくとも、運筆には、書き手の性格が表れるのでこの特徴は重要である。

bで指摘したのは「第5画の形状」である。僅かに下に湾曲している形が、やはり2資料に類似している。実は、aとbで指摘したことは、藤井氏の共通する個性と思われる。藤井氏は「キッパリ」とした線はほとんど書かないようだ。性格の一つの反映と思われる。

このbで指摘したことは、偽造を否定するためにあえて指摘している。この特徴は、拡大し指摘されて初めて気づく人がほとんどだろう。気づかない部分に作為を施すことは出来ない。だから、この特徴は、書き手本来の筆跡個性の可能性が高い。それが一致することは同一人の筆跡であることを示唆しているといえる。

つぎにcで指摘したのは、「谷」字の第1、2画……普通「ハ」のように書かれる部分である。これを藤井氏は、大胆に「つ」字のように書く。極めて個性的であり、30人に1人も書かないような稀少筆跡個性の一致といえる。筆跡鑑定では、このような稀少筆跡個性の一致は重みがある。

dで指摘したことも、稀少な筆跡個性である。「谷」字の第3画右払いを、直立に近い形に書いている。最後にeで指摘したのは、「口」字を「Z」のように運筆する。これも、ここまで崩すのはめったに見ない形である。

以上、これだけ個性的な書き方の一致があり、かつ、bで指摘したように、「別人が気づいて偽造するのはほぼ不可能」という一致があり、また、aで指摘したように、「よく目立つので、偽造では決して書かない」と思われる点画の問題がある。これだけ条件が整えば、別人の筆跡とはいえない。

私は、警察OBの鑑定のように、「類似するから一致」とするような単純な鑑定はしない。「この人間以外には書けない」というレベルまで追い込んでの判定をしている。やはり、藤井氏は、クロなのである。

ともあれ、自由党の組織対策費15億円といえども国民の汗と油である。土地購入に充てられたという4億円も元をたどれば国民の財産である。お二人とも、大衆を欺くことは簡単だと高をくくっていてはいけない。天は欺けないことを知るべきである。

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