舞の海は筆跡も「八艘飛び」?

筆跡鑑定人ブログ-

筆跡鑑定人 根本 寛
 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。ただし、プライバシー保護のため固有名詞は原則的に仮名にし、内容によってはシチエーションも、特定できないよう最小限の調整をしている場合もあることをご了解ください。

 

舞の海の俊敏な相撲をもう一度見たい

舞の海は、大好きな相撲取りである。並ぶと、私よりも身長が低いのに、巨漢「曙」や「小錦」などと対戦した。文字通り大人と子供のような様子で、押しつぶされて怪我をしまいかとはらはらして見ていると、俊敏で多彩な技で、何回となく巨漢を土俵に這い蹲くばらせたものだった。

舞の海は、青森県津軽鰺ヶ沢の舞戸町の出身、舞戸町と出羽海部屋から一文字ずつもらって「舞の海」とつけたそうだ。その技は、「猫騙し」や「八艘飛び」さらには「後退する立ち合い」などなど。
170センチ、96キロという小柄な体で、意表をついた動きで巨漢力士をきりきり舞いさせた。「平成の牛若丸」、「技のデパート」と称されたことは未だに皆さんの記憶に鮮やかだろう。

私は、彼の講演を聞いたことがある。入門基準に身長が足りなくて、シリコンの袋を頭に埋め込んだ話は何度聞いてもおかしい。頭皮を切り開いてシリコンの袋を埋め込み、そのシリコンの袋に、一か月くらいかけて水を少しずつ注入するのだそうだ。これをやると、顔の皮は上に引っ張られて、気を失いそうになるくらい痛く夜も眠れないそうだ。

そんなに我慢して準備したにも関わらず、身体検査の日に病院で測ると、まだ1センチも足らない。
どうしてもパスしたいので、医者は危険だと言ったが、強引に水を入れてもらった。痛くて痛くて気を失いそうになりながら検査場に行ったそうだ。

その時の検査役は北の湖関だった。なんと北の湖は、ろくに身長を確かめもせずどんどん合格させていたそうだ。それどころか、舞の海の番が来ると小さな声で「痛いか、頑張れ、もう少しの辛抱だ」とささやいたそうだ。何のことはない、全部ばれていて合格させる気でいたらしい。

その後、この合格基準は、身長に関しては下げられたそうだが、もしかして、舞の海の活躍も理由の一つかも知れない。相撲協会は、牛若丸のような小兵が大男をきりきり舞いさせるほうが面白いし、相撲の人気も上がると考えたのかもしれない。

文字も八艘飛び?

さて、その舞の海の筆跡だが、さすがに多彩な技のデパートだけに、筆跡も変幻自在だ。「舞」も「海」も、行書でも草書でもない独特の崩し方である。しかし、何となくバランスが取れていて、「猫」でなくとも騙されそうだ。

それよりも、「躍動」の文字が面白い。こちらは、崩しはさほどではないが、「偏とつくり」に分けてみると、偏の「足」と「重」の文字が非常に小さい。隣に小さく書道手本の文字を示したので比較してみると分かる。

「躍」の字も「動」の字も、相撲の立ち合いを想像してみると、「足」と「重」が小柄な舞の海で、「つくりが」巨漢の対戦相手で、舞の海の「偏」が、巨漢のつくりを八艘飛びで飛び越そうとしているように見えなくもない。

それをイメージしてみたのが右の図だが、如何だろうか。皆さんの脳裏に舞の海の華麗な八艘飛びが浮かんだら大成功。

「偏」を小さく「つくり」を大きく書く方の性格とは

「偏」を小さく書く人は、「様」の文字などでたまに見ることがある。これを筆跡心理学の立場から、どのように解釈したらよいかと議論したことがある。なかなか難しく、これが正解という結論には至っていない。

私が診断した方は営業マンだったので、「○○さんは、最初は慎重でおとなしく接近していきますが、馴れると結構図々しくなるのでは?」と半分冗談で言ったら、ノリのいい人で「そうそう、そのとおりですよ!!」と笑っていたが、もちろん、これは冗談。

筆跡に表れる特徴は、日常行動の傾向とつながっている。例えば、文字と文字の間を詰めて書く人は、日常行動としてはせっかちで、何か一つのことが終わっても一息入れるということをしないで、すぐ次に移るという傾向がある。文字の間を広く空けて書く人はその逆である。

そういう意味で、「偏」と「つくり」があって、偏が小さく、つくりが大きいということは、筆順としては、左の偏を書いた後に右のつくりに取り掛かるわけだから、私の診断も、丸っきり見当違いではなさそうだ。しかし、何かもっと的確な表現がありそうにも思える。

筆跡に表れる特徴は深層心理の姿

ともかく、筆跡に表れる特徴は、書き手の深層心理の表れである。「小さい文字」は、行動傾向として「おとなしい」、あるいは「静かにしている」等の行動傾向と結びついている。

「大きな文字」は、「行動的である」、「活動的である」あるいは「遠慮しない」などの行動と結びついている。つまり文字の大小は「動と静」とも言っても間違いではない。

そうなると、相撲の「立ち合い」とも関係する。つまり、仕切り線の上に手をついて気合を図っている「静」の段階、一瞬の後パッと立ち上がる「動」の段階と考えると、「偏の小は静」、「つくりの大は動」と合致し、先のイメージ図もまんざら出鱈目でもない。

……というわけで、一文字中で「偏」を小さく「つくり」を大きく書くというのは、「静から動へと素早く変化する行動傾向」と言えなくもない。これは八艘飛びの舞の海にピッタリの特徴ではないだろうか。

……いやー参りました。舞の海の筆跡が、このように展開するとは考えてみなかった(笑)。もちろん、これは仮説に過ぎないが、さらに、思索を深める必要がありそうです

お読みの方で、この「静と動」の書き方の方、あるいは知り合いにいらっしゃる方は、一度考えてみてください。そして、これはという考えが浮かんだら、ぜひご一報いただきますようお願いいたします。

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