筆跡鑑定人ブログ
筆跡鑑定人ブログ−28 |
筆跡鑑定人 根本 寛 |
このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」
のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。 |
何とかならないのか、警察OBの鑑定書 (08−10−31) |
■ | 民事にこそ裁判員制度が必要 裁判員制度のスタートが間近になった。この制度の目的は「裁判に国民
の日常感覚や常識を反映させる」ということにある。また、その結果、「裁
判が身近でわかりやすいものになり、司法に対する国民の信頼向上につな
がる」という効果が期待されるという。 |
|
■ | 誤りの多い民事裁判 この誤審に関して、常々問題だと思っていることは、裁判所の鑑定人リストに載っている筆跡鑑定人の質の低さである。それは、「鑑定書のわか
りにくさ」と「技術面の水準の低さ」になって表れる。 |
|
■ | 「形態構成」「長さの構成」とは何のことか 一例を示そう。図Aは、Y鑑定人の説明図である。そして、図に対応する説明部分にはつぎのように説明されている。 「遺」の字について 文中の「形態構成」とは何を意味しているのか、私には理解できないが、はたして理解できる人はどれほどいるのだろうか。なお、鑑定書の何処を探しても「形態構成」についての説明はない。 「言」の字について これも同様に「長さの構成」とは何のことであるのか。もちろん、これ についても説明は一切ない。まさに裁判官にだけ理解されればいいとする、当事者不在の鑑定書である。……もっとも裁判官にも理解できるとも思えないが……。もし、この文をお読みの方でお分かりになる方がいたらぜひお教え願いたい。 |
|
■ | この文字を「滑らかな文字……」とは つぎは鑑定能力が低いために鑑定結果を誤る鑑定人である。鑑定能力が低いといったが、もしかすると裁判官の心証を察知して迎合しているのかも知れない。そのあたりは微妙であるが、いずれにしてもあまりにも見え透いた誤った鑑定書である。このような鑑定書が少なくないのが現実である。 「字画線の筆致には不自然な状態は見られず、字画線の一部に震えが見られるが、渋滞などの痕跡はみられないほぼ滑らかな字画線で、自然に書かれた文字と考えられる」 |
|
■ | なぜ裁判所の筆跡鑑定はあてにならないのか 民事裁判は普通の国民にとっては刑事裁判よりはるかに身近なものである。その民事裁判で、裁判所の指定する鑑定人の鑑定書がいい加減なものが多すぎるのである。「司法に対する国民の信頼向上につながる」どころか、「司法に対する国民の信頼を失わせる鑑定書」である。 |
|
■ | どうすれば改善できるのか 私は「わかりにくい鑑定書が悪の根源」だとは思うが、「裁判官が読まないから鑑定人が努力をしないのではないか?」という疑問も棄てきれない。 |
「治」の文字について
ア、
aで指摘したのは「第1、2画の点画の角度」である。これは書道手本のように右が下に向かうの本来の形であるが、逆に右上がりになっている。その明白な筆跡個性が資料A・Bで一致している。
イ、
bで指摘したのは「『口』字の終筆部を右に突出させること」である。これは「石」字でも同じ特徴を指摘したように、筆勢があるこの書き手の恒常的な筆跡個性である。この筆跡個性も資料A・Bで一致している。
ウ、
cで指摘したのは「縦軸が左傾すること」である。このように1字だけ取り出すとわかりにくいかも知れないが、巻末に添付した資料を見ていただければ納得頂けるはずである。「石●●」までは直立しているが、この「治」字になると急に左傾する。この個性的な特徴も資料A・Bで一致している。
エ、
dで指摘したのは微妙であるが重要である。「『ム』字と『口』字の間が普通よりも広く空くこと」である。これは書道手本と比べるとわかりやすい。この個性的な特徴も資料A・Bで一致している。この部分は拡大し指摘されて初めて気付くような微細な特徴である。気が付かないものに作為を施すことは考えにくい。この特徴は、資料A・Bがそれぞれ本来の筆跡個性である可能性を高め、別人による偽造の可能性を低くしている。
|
いかがであろうか。このように図解と説明を一体化させれば、何も難しい説明は必要なく、一般人に取っても一目瞭然ではなかろうか。 |
||
★このブログはお役に立ちましたでしょうか。ご感想などをお聞かせいただけば幸いです。 メール:kindai@kcon-nemoto.com |